あの頃の私は知らない。
「音楽できる人は、ギターも弾けるんじゃないの?」
きょとんと効果音が付きそうな顔をして、園田くんは尋ねる。その単純な思考回路に戸惑いながらも口を開く。
「それ、体育できる人は野球もサッカーもできるって言ってるようなものだよ」
「俺どっちもできるよ」
「す、すごいねそれは……」
「あはは、ありがとう」
って、いやいやいや。完全に話が逸れている。軌道修正しようとしかければ、それより先に園田くんが話し出した。
「ギターめちゃくちゃ上手くなって、そしたらバンド組んで、有名になってみんなにちやほやされんの。どう?」
「ど、どうって言われても……」
単純明快で軽いその野望。少し呆れていれば園田くんは持っていたギターケースを横にして、そっとそれを開けた。
「まあそういうのは嘘で」
「え」
「やっぱり本当で」
「は」
「はは、困ってる困ってる」
「こ、困ってるんじゃなくて呆れてるの!」