あの頃の私は知らない。
エプロンを外して少し髪を整え、コートを羽織ってマフラーをする。貴重品だけ持って裏口から出ると、店の前に彼はいた。私の姿を見つけると、よっと手をあげる。
「よ、よっ」
「はは、なんか固いな」
ぎこちなく手をあげた私を笑って、紺色のダッフルコートを着た園田くんはそう言う。
「急にごめん、……少し話せる?」
「ここで断っても多分園田くんは引いてくれないよね」
「ばれた?」
「ばればれだよ」
苦笑すると、彼はどこか懐かしげな顔をした。あの頃を思い出しているのだろうということは想像できた。
自由で明るい園田くんに振り回されるたび、私はいつも仕方ないなあと思いながら苦笑していた。それでいて、私一人では見られなかった世界を見ることに、とてもわくわくしていた。
あれから7年。懐かしむのに充分な年月が経過していた。
「ちょっと歩こうか」
「あ、うん」
ひゅう、と冷たい風が吹く。緑色のマフラーに顔を埋めて、私は彼の半歩後ろを歩いた。