あの頃の私は知らない。
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“順調で平穏な人生だった”。
私の20年間を一言にまとめると、この言葉に尽きると思う。
「ありがとうございました」
駅前のカフェでのバイト。
閉店時間である夜10時に近付くとともに、お客さんは減っていく。
窓の外はすでに真っ暗で、道行く人々はコートに身を包み、足早に通り過ぎていった。
「里奈ちゃんレジお願いしていい? ちょっと裏行ってくるわ」
「あ、了解です」
そう言ったチーフに頷いてレジに立ち、ぐるりと店内を見渡す。
カウンター席で資料を広げていたサラリーマンはちょうど席を立つところで、窓際のテーブルで勉強をしていた高校生は鞄にノートをしまっていた。
明日は一コマから授業だから、帰ったらすぐお風呂入って寝てしまおう。
今週末に提出のレポートがあった気がするけれど、それは明日の夜にしよう。
ぼんやりと考えながら、レジの画面右下の時計を見た。
21:47。もうお客さんは来ないだろう。
穏やかに、緩やかに、時は流れていく。
そう思っていた。