あの頃の私は知らない。
君と交わした指切りも
「あっつー! 窓開けよ、窓」
「だ、だめだよ、ギターの音が外に漏れたらあやしく思われるよ」
「宇佐美のけち」
「えっ」
「嘘だよ」
最近気付いたことがある。園田くんは私を戸惑わせて楽しんでいる節がある。
今日もまたぽかんとした私を見て、楽しそうに笑いながら扇風機の電源を入れる。
生温い風しか送られてこないけれど、無風状態よりは随分ましだ。
「そういえばさ、俺思ったんだけど」
「なに?」
いつものようにケースからギターを取り出した園田くんは、少し神妙な面持ちで話し出す。
毎日持ってくるのも大変だし、先生に見つかっても大変だということで、ギターは使われていない掃除道具入れの中に隠していた。
「バンドするならアコースティックじゃなくて、エレキだよね多分」
「それ気付くの結構遅いね……」
「え、宇佐美知ってた?」
鞄の中から『アコースティックギター入門』と書かれた教則本を取り出して頷く。
私の家の本棚に眠っていたこの本を、いつも二人で見ながら練習していた。