あの頃の私は知らない。
「なあ、ちょっとピアノ弾いてみて」
「え、えっと、それはまた突然だね」
「昨日ピアノとギターでセッションしてる動画見たんだ!」
「ほんと影響されやすいね……」
「宇佐美あれあるから初見でもかなり弾けるって女子が言ってたし、あれ、あの」
「えっと、絶対音感?」
「そう、それ!」
きらきらと目を輝かせて園田くんは言う。
確かに絶対音感はあるけれど、急に弾いてって言われても。
そう思うけれど、私は園田くんに弱いし甘い。
「どんな曲がいいの?」
「適当に弾いて、俺も適当に弾くから!」
「なんとまあ適当なセッション……そして楽譜無いなら初見がどうとかあんまり関係ないよね……」