あの頃の私は知らない。
「でもほんと楽しかった。最後タイミング揃ったとき、俺鳥肌立った」
「私もそれ嬉しかった」
「もっと上手くなって、次はちゃんとセッションしたいな」
「うん、そうだね、今度はちゃんと曲決めて楽譜見よう」
「それにしても宇佐美って、本当にピアノ上手いよな」
「え、わ、ありがとう」
唐突に褒められて、心がぎゅっとなった。
私がピアノを弾くことで園田くんが楽しそうにしていたことも、また一緒に弾きたいと言ってくれたことも、素直にとても嬉しかった。
身体の中がほんわりと暖かくなって、ピンク色のお花が頭の上に咲いたような気持ちだった。
「宇佐美、俺とバンド組もうよ」
「うん、そうだね……はい?」
「俺がもっと上手くなって、宇佐美の隣に並べるレベルになったら、一緒に音楽しよう」
「えっと」
「音楽をこんなに楽しいと思ったことなかった。ずっとこの時間が続けばいいなって思った」
――誘い方が上手すぎると思った。
好きな人からこうやって言われて、頷かないわけがないと思った。