あの頃の私は知らない。
「バンドやってるんだ。大学でこっち出てきて、同じように音楽が好きな人たちに出会って、入れてもらった」
「うん」
「インディーズだけどそれなりにライブしたりCD売ったりしてるよ」
音楽。
それは私と園田くんを結び付けた存在で、どう頑張っても離せないものだった。
だからこそ分かった。園田くんがこの話をするということは、私にきっと言いたいんだ。
「私はもう、あの頃とは違うよ」
それなら、と先手を打った。
隣で小さく息を呑む音が聞こえた。
彼を傷つける言葉だと分かっている。それでも、そう言うしかなかった。
「転校して必死に周りに馴染むようにして、高校でも大学でも目立たずに過ごしてきたよ」
ゆっくり考えながら、でもはっきりと告げる。
「もう子どもじゃないし、世の中にピアノを弾ける人がたくさんいることも知ってるし、がむしゃらに夢を追いかけることもできない。普通に社会人になって、これからも平穏に生きていくの。きっと私の人生はそういうふうに出来ているの」
「平穏?」
彼の顔がくしゃっと歪んだ。その表情に切なさが増す。