あの頃の私は知らない。
せっかく忘れかけていたんだ。忘れられそうなところだったんだ。
「来て」
「……えっと」
「そうじゃなきゃ俺が報われない」
そう言った彼の瞳を見た。寂しそうに揺れて、弱っている瞳だった。
無謀な夢を描いてしまうのは怖い。
でも、見てみたい。大人になった彼が弾くギターの音を、聞いてみたい。
差し出されたチケットを、震える手で受け取った。
「……行けたら、行くね」
小さくそう呟くと、安堵したように彼は笑った。