あの頃の私は知らない。
――誘い方が上手すぎると思った。
この上ない口説き文句だと思った。
彼は頷く以外の選択肢を与えてくれない。
「……本当に、私でいいの?」
「宇佐美じゃないとだめなんだ」
もう一度確認すれば、目を逸らさずに頷かれる。
大きく息を吐き出す。
すう、とそのまま息を吸うと彼は肩を震わせた。
「……ごめんねって謝りたかった。ありがとうって言いたかった。ずっとずっと、園田くんと音楽がしたいって思ってた」
そっと両手で彼の顔を包んだ。
彼の瞳が揺れるのが分かる。
「もう一度、私と一緒に音楽をしてください」
そう言って微笑むと、彼はあの夏の日のように、綺麗な笑顔を浮かべた。
世界が一回転して、また生まれ変わる。
飛び込んだその世界は、どんな色をしているのだろう。
少しの不安と、大きな期待。
たくさんの感情を引き連れて、きらきらと光るその先へ行こう。