あの頃の私は知らない。
が、しかし。
「……」
「……?」
なかなか相手の反応が返ってこない。
どうしたものかと顔を上げようとしたとき、低い声がすっと耳に届いた。
「うさ、み」
「え」
突然名前を呼ばれて驚いた。ぱっと顔を上げる。
レジの前に立つ背の高い男の人は、じっと私のネームプレートを見て、それからゆっくりと私の顔を見た。
「宇佐美、里奈」
名前を呼ばれた。目が合った。
時が止まったかと思った。ぴたりと止まったあと、時が戻っていく感覚がした。
急に周りが見えなくなって、その瞳から目を逸らせなくなった。