あの頃の私は知らない。
この7年間、あの夏のことが心の奥底でちらつくたび、どうしようもない気持ちになって、さらに奥へと仕舞っていた。
小さな胸のときめきも、二人で描いた夢も、最後に見た彼の顔も、ずっとずっと仕舞っていた。
それが急に堰を切るように溢れ出してくる感覚がして、でも、それは今溢れてきてはいけないものだった。だから、必死にぎゅっと押し込んだ。
「……よかった」
「え?」
ぽつり、呟いた彼に顔を上げる。何が、と聞こうとしたけれど聞けなかった。
「また、宇佐美に会えた」
彼はそう言って笑った。その笑顔があまりにも嬉しそうだったから、何も言えなかった。
園田くん、そんなふうに笑わないで。私には笑顔を向けてもらう資格なんてないんだよ。
「園田くん、……」
「里奈ちゃーん、そろそろ店閉め……いらっしゃいませ」
口を開きかけたとき、裏に行っていたチーフが帰って来た。レジの画面右下、時計は21:55を示している。まさかこの時間にお客さんがいると思わなかったのだろう。チーフは驚いたように声を張った。