いと、ゆかし
「今日はブランコでした」
「そっかー。あっくん、ブランコこぎ始めるとなかなか止めないのよね」
苦笑いする先輩のお母さん。
でも、止める気配はない。
「……先輩は、私のこと覚えてくれてるんですかね」
ぽつり。
とっくに冷めたココアの缶を持ちながら言うと、
「覚えてるわよ、もちろん」
きっぱり答えが返ってくる。
「そうですか」
「そうよ」
優しいその声に、泣きそうになる。
キーコキーコ、橙色の公園には、まだ先輩のブランコの音だけが響いていた。