いと、ゆかし
噛み締めるように、耳に焼き付けるように、ぎゅっと瞳を閉じた。
「せんぱいー」
「……」
「大好きです、先輩」
「うま」
やり場のない気持ちは、どうするべきか。
「あ、そうだ」
ふと思いついて、先輩の顔を覗き込む。
ココアの缶を両手で持っていた先輩は、私に気づいたのか、ちらりと視線を動かした。
「せんぱいせんぱい」
「ん」
きっと分からないだろうな。
まあ、いいや、それでも。
これからもっともっと、覚えてもらえればいいや。
そんな気持ちで、首を傾げて口を開く。
「私の名前、分かりますか」