無愛想で糖度高めなカレの愛
「楠木って、私達の商品置いてないですよね?」


地下にある食品売り場では、たしかうちの商品は扱っていないよね……と思いながら問い掛けた。

恵次は腕を組み、難しそうな顔をして頷く。


「あぁ、今回が初めて。だから苦戦してるんだけど、なんとか口説き落としたいんだよ。あそこは催事場で大々的にバレンタインコーナーを設けるだろ? そこにうちの商品の売り場を確保してもらえたら、結構な影響力があるはずだ」


たしかにそうだろう、と同意しながら私も頷いた。

楠木は若い人から中高年まで幅広い層の人達が利用していて、特に女性の割合が多い印象だ。きっとバレンタインも賑わうに違いない。


「そこで、ぜひ女性目線の意見を聞きたいと思って。ここの営業、俺も含めて男ばっかりだから似たような案しか出なくてさ。そのどれもが惨敗」


苦笑しながら、少し声を潜めて言う恵次。職場が変わっても難無くこなすかと思っていたけれど、やっぱりジャンルが違うと容易くはないらしい。

でも、どうして私なんかに聞くのだろう。営業に関しては知識も乏しいのに。


「それなら、私じゃなくて篠沢課長とかに聞いた方がいいんじゃないですか?」

「君がいいんだよ」


セクシーな微笑みとともに言われ、私は一瞬固まった。

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