無愛想で糖度高めなカレの愛
スーツに黒いコートを羽織ったその人物を見て、私は目を見開いた。


「……河瀬くん!」


眼鏡を掛けた表情は私を見てもやっぱり変わらず、ぺこりと軽く頭を下げる。

偶然会えたことが嬉しくて、私はテーブルの上の片付けもそこそこに、夕浬くんのそばに駆け寄った。


「今帰り?」

「はい。……間宮さんも、残業してたんですか?」


ちら、とテーブルの方に薄茶色の瞳だけを動かす彼を見た瞬間、少しだけギクリとした。

夕浬くん、私と恵次がふたりでいるところ、見ていなかったかな……?

でも、もし見ていたとしても、仕事していただけなのだから、何もおかしなことではない。


「あ、うん、ちょっと頼まれ事があって。もう終わったから私も帰るわ」


いたって普通に答えると、夕浬くんは少しの間を置いて言う。


「たまには一緒に食事でもして帰りませんか?」


予定外の、彼からのお誘い。

それがとっても嬉しくて、私はすぐに笑顔が広がり、「うん!」と、子供みたいに元気な返事をした。

つられたように夕浬くんの口元も緩み、その微笑みが見られたことで、またテンションが上がる。

おかげですっかり恵次とのことは頭から抜け、私は急きょ決まったデートにただただ浮かれるのだった。






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