無愛想で糖度高めなカレの愛
「今回も実現させるよう、全力を尽くします。では」

「あ……ハイ、お願いします……!」


はっとして、何故か敬語でぺこりと頭を下げると、彼はさっさと階段を下りていってしまった。

ひとり廊下に残され、動かないまま考えを巡らせる私。

何だったんだ、今の。気があるようでないような、微妙な発言は。

河瀬くんの頭の中って、私にはやっぱり理解しがたいわ……。


首をかしげつつ苦笑を漏らし、オフィスに向かって歩き出した。

すぐに着いたそこのドアノブに手を掛けようとして、手首を掴まれた感覚が蘇る。

彼の思考は謎だけど、“あなたの喜ぶ顔が見たい”だなんて……


「言われて悪い気はしない、よね」


少しだけ緩みそうになる口元を、持っていた書類で隠した。



私って、つくづく甘いものに弱い。チョコレートも、恋愛も。

私の心はすぐに糖分を欲しがってしまう。


けれど、それは危険だということもわかっている。

口にするから、また食べたくなる。甘いものにはそういう中毒性があるのだ。

もうあの時みたいな恋はしたくないもの、慎重にいかないと。


脳裏に過ぎる、女を虜にする笑顔を浮かべる男の姿を掻き消しながら、ドアを開けてオフィスに足を踏み入れた。




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