無愛想で糖度高めなカレの愛
「どうしたの? 甘えちゃって」

「ちょっと……抱きしめたくなっただけ」


きゅ、と彼が腕に力を込め、私の心に愛しさが満ちていく。

幸せって飽和状態にならないのかな、なんて頭の中をピンク色にしながら、彼の耳に頭をすり寄せるようにして洗い物を続けた。

しばらくして、私の背中にぴたりと胸をくっつけたままの夕浬くんが、再び名前を呼ぶ。


「明穂さん」

「んー?」

「俺は、恋の病にかかってるのかもしれません」


突拍子もない一言に、スポンジを滑らせていた手をぴたりと止めた。

恋の病? そんな非科学的なことを口にするなんて、夕浬くんらしくない。いつもなら、“そんな病気は存在しません”とか言って一蹴するだろうに。

私は数回瞬きした後、ぎこちなく笑いながら言う。


「なんか、珍しいこと言うね」

「俺も不思議です。これだけは解明できそうにない」


肩の上でため息混じりに呟かれた声は、どこか弱々しく聞こえた。

いったいどうしたのだろうかと思っていると、彼はさらに言葉を続ける。


「こんなに近くに……自分の腕の中に閉じ込めているのに、どうしてか不安になるんです。あなたが、ここをすり抜けていってしまいそうで」

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