無愛想で糖度高めなカレの愛
それを聞いてピンと来た。

もしかして夕浬くんは、私が恵次とヨリを戻すのでは、と心配しているんじゃないだろうか。

この間、休憩スペースでふたりきりで残業していた時も、彼がそれを見て変に勘繰ってしまっていたとしたら……。

私はキュッと水を止めて手を拭くと、彼の腕の中で身体を百八十度向きを変えた。

夕浬くんと向き合うと、見上げた先に力無いはかなげな表情があって、少し胸が締め付けられる。


「……私はどこへも行かないよ。ずっとここにいる」


不安になんてならないでほしいという想いを込めて、ふわりと微笑むと、彼は私の髪に顔を埋めるようにしてぎゅっと抱きしめた。

言葉がなくても、私を信じようとしてくれているのが伝わってくる。


「……今日は帰らせませんよ」


やっといつもの強引さが戻ってきて、私は含み笑いしながら頷いた。すると。


「朝まで俺に抱かれる覚悟、できてます?」


急に色めく声で囁かれ、ドキンと心臓が跳ねる。

イエスともノーとも言えず、熱が集まる顔を上げられないままの私。だけど、彼はクスッと笑い、愛おしそうに頬にキスをした。


──彼と抱き合っていると、心が安らぐ。

このまま、私の不安もなくなってしまえばいい。

お互いの心に潜む黒いもやを消すように、私達は一晩中肌を重ね合わせた。


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