無愛想で糖度高めなカレの愛
顔をしかめる私だけど、恵次はそれを想定していたように軽く笑い、次はこんなことを言い出す。


「じゃ俺の車に行こう」

「もうっ、いいからここで──!」


話しなさいよ!と言おうとして、お隣りに住む、おそらく三十代のサラリーマンが、私達のすぐそばまでやってきていることに気付いてギョッとした。

うわわ、いつの間に!?

ぎこちなく笑って会釈すると、彼は気まずそうにしながら恵次の後ろをササッと通り過ぎていった。

そうよね……ここだと近所迷惑になるし、話が筒抜けだ。今さらながらそのことに気付く私って……。


「……車と部屋ん中、どっちがいい?」


言葉をなくす私の耳に、してやったり、というような恵次の声が響いた。



結局、部屋よりは車がいいだろうと踏んだ私は、コートを着込んで恵次と一緒に一階へ下りた。そして、アパートのすぐ横の道路の邪魔にならない場所に路駐させていた、コンパクトなスポーツカーに乗り込む。

三年前と変わらない車。この助手席にも何度も乗せてもらった。

懐かしさを感じる車内だけれど、やっぱり胸をときめかされることはなく、締め付けられる苦しさを覚えるだけだ。

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