無愛想で糖度高めなカレの愛
「……じゃあ、また」


自分自身に問い掛けているうちに、夕浬くんはドアの方に向かって歩き出す。

……ダメだよ、このままじゃ。今彼を呼び止めなかったら、きっと私はまた後悔する。

今さら助けを求めるのがみっともないとか、そんなことで躊躇っている場合じゃない。気まずさに負けていたら、この淀んだ空気はいつまでたっても消えやしないんだから。

彼がドアに手を掛けようとした瞬間、私は息を吸い込んだ。


「夕浬くん!」


まるで、声が出せない呪いを断ち切ったかのように、私の声がオフィスに響き渡る。彼はぴたりと動きを止め、綺麗な瞳を再び私に向けた。

今ずっと思い悩んでいたことのひとつを、単刀直入に話し出す。


「……あのね、秋に発売した商品の消費者調査で、納得いく結果が出せなかったの」


向かいの壁側にいる夕浬くんまでちゃんと声が届くように、はっきりと言った。

まっすぐ私を見つめ、黙って耳をかたむけてくれる彼に、自嘲気味に笑ってみせる。


「私が提案したスイートポテト味のチョコね。私的には結構イケるって思ってたから、その分ショックが大きかった。自信なくなっちゃって、バレンタイン商品も売上聞くのが怖くて……」

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