無愛想で糖度高めなカレの愛
気持ちも涙腺も緩んで、ぽろぽろとこぼれる涙を止められずにいると、視界に夕浬くんの手が映り込む。

眼鏡の奥の澄んだ瞳で私を見つめ続ける彼の、長い指が濡れた目の下に触れ、ピクリと肩が跳ね上がる。親指で涙を拭うと手の平でそっと頬を包み込み、そのまま静止した。

自分の心臓の音が大きく響く。私達はもう何度も身体を重ねているというのに、頬に手をあてがわれて見つめ合っているだけで、どうしてこんなにドキドキするのだろう。


「明穂さん……」


熱を帯びた切なげな瞳をする彼が、やっと名前で呼んでくれて、胸がきゅっと締め付けられる。

綺麗な顔が徐々に近付き、キスを予感した私はゆっくり瞼を伏せようとした。


その時、隣の広報課のドアが勢い良く開く音がして、私はびくりと身体を震わせた。パーティションでここからは見えないけれど、物音で誰かが入ってきたのはわかる。

びっくりした……ていうか、タイミング悪……。

反射的に夕浬くんも私から手を離し、後ろを振り返っている。そして、安堵か落胆かわからないため息を吐き出した。


「……すみません、偉そうなこと言って」

「あ、ううん、全然!」


何もなかったかのように姿勢を正す彼に、私は首をぶんぶんと横に振った。

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