無愛想で糖度高めなカレの愛
会社に着くと、とりあえずみかんは車に置いたまま、建物の中に向かった。
土曜日は、工場はいつも通り稼働しているけれど、オフィスの方はしんと静まり返っている。事務仕事をしている人がいたとしても、ごく少数だから。
研究室にいるのは夕浬くんだけなのだろうか。白いドアの前までやってくると、ひとつ息を吐いて逸る気持ちを落ち着けてから、コンコンとノックした。
「失礼しま──」
しかし、ドアを開けて一歩足を踏み込んだ瞬間、飛び込んできた光景に声を失った。
な、に? これは……。
こちらに身体を向けている夕浬くんに、ぴたりと女性がくっついている。ふんわりとしたボブの前髪を、彼の胸に押し付けて。
夕浬くんは彼女の腕に手を添え、抱き留めているように見える。
──どうして、安達さんがそんなところにいるの?
「あ……っ!」
彼女は声を漏らして、すぐにバッと離れる。一瞬見ただけの光景だけれど、私の目にはしっかりと焼き付いてしまった。
夕浬くんもうっすら口を開いているものの、私と同様、声が出ないようだ。
お互い驚いた顔で見つめ合ったまま、時が止まる。金縛りにあったみたいに、まったく動けなかった。