無愛想で糖度高めなカレの愛
若干不安を露わにする私だけれど、彼は安心させてくれるように少しだけ口角を上げた。


「人の味覚っていうのは案外いい加減なもので、思い込みで味が変わったりするんですよ」


そう言うと、夕浬くんはデスクの隅に置いてあった茶色の小さな瓶を、おもむろに手に取る。貼ってあるラベルをよくよく見ると、どうやら研究に使う香料のようだ。

それを見るともなく眺めながら、彼は再び話し始める。


「例えば、かき氷のシロップ。いちご味やメロン味、ブルーハワイなんかがありますけど、本当はどれも味は一緒なんですよ。あの色と香料で、脳が別の味だと誤解してるだけですから」

「えぇっ、そうなの!?」


初めて知った二つ目の雑学に、すっとんきょうな声を上げてしまった。

だって、全然別の味がするのに! それが、脳の誤解によるものだとは……。

驚く私を見て、夕浬くんは珍しくおかしそうな笑いをこぼした。


「この料理はシェフが作ったと言われてそれを信じ込めば、たとえそうでないものでも美味しく感じるだろうし、ひとりで食事するより、皆で食べた方が美味しいでしょう。明穂さんみたいに、その逆もある。単純で、いい加減なんです」

「たしかに、そうかも……」


私は呆気に取られて目を瞬かせた。

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