無愛想で糖度高めなカレの愛
でも、その通りなの。私は本気で好きだった。

それを汲み取ってくれる河瀬くんは、優しい人だね。


「……まだ好きなんですか? 彼のこと」


俯く私に、河瀬くんは遠慮がちに問い掛けた。

私は鼻で笑い、しんみりとした空気を振り払うように強い口調で言う。


「好きなわけないじゃない。もう一度会ったとしても、ヨリを戻そうなんて絶対思わないし」


これは強がりでも何でもなく、本心。もうあの人の都合の良い女になるのは御免だもの。


「ただ……いまだに思い出して、古傷みたいなものが疼くのよね」


膝の上で頬杖をつき、ため息混じりに呟いた。

河瀬くんは私のグラスにシェリー酒を注ぎながら、「それは、まだ未練があるってことではなく?」と聞く。

紅茶より少し赤みを帯びたそれがグラスの中で揺れるのを見ていた私は、据わった目を河瀬くんの方に向ける。


「あのねぇ。思い出すからって未練があるわけじゃないの! 匂いで記憶が蘇ったり、当時聞いてた曲を聞くと懐かしくなったりするでしょ? ただそれだけよ」


人差し指で彼を指しながら、ビシッと言い切った。

少しだけ私の勢いに身を引いた河瀬くんは、体勢を直して自分もグラスに手をつける。

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