無愛想で糖度高めなカレの愛
「まぁ、匂いは一番記憶に残ると言いますからね」
「でしょ? 本当にただそれだけなんだけど……それが嫌なの。もう忘れたいのに」
あの頃の苦い思いを消したくて、また甘いお酒に口をつけた。
お互いに想いを巡らせて、しばらく沈黙に包まれる。けれど、この時間も空気感も、不思議と居心地は悪くない。
すると、前屈みになって座っている河瀬くんが、片手を顎にあてて口を開いた。
「人の記憶というのは、覚えるより忘れることの方が断然得意です。一時的な記憶は脳の海馬という場所に保存されますが、それが必要ないと判断されると忘れてしまう」
キョトンとする私。
これはいつもの理論が始まっちゃう感じ? 今の酔ってる状態で理解するのはかなり厳しいんだけどな……
なんて一瞬思ったものの、ゆっくりと語られる彼の声に、自然と耳を傾けさせられていた。
「辛いことや、不必要なものは忘れるようにできています。明穂さんがそうできないのは、彼との記憶を大切に思っているからです。本当は、捨てたくないものだから」
ドキリ、と胸が鳴る。
“本当は、捨てたくない”という言葉が、ぴたりと当てはまっているような気がして。
「でしょ? 本当にただそれだけなんだけど……それが嫌なの。もう忘れたいのに」
あの頃の苦い思いを消したくて、また甘いお酒に口をつけた。
お互いに想いを巡らせて、しばらく沈黙に包まれる。けれど、この時間も空気感も、不思議と居心地は悪くない。
すると、前屈みになって座っている河瀬くんが、片手を顎にあてて口を開いた。
「人の記憶というのは、覚えるより忘れることの方が断然得意です。一時的な記憶は脳の海馬という場所に保存されますが、それが必要ないと判断されると忘れてしまう」
キョトンとする私。
これはいつもの理論が始まっちゃう感じ? 今の酔ってる状態で理解するのはかなり厳しいんだけどな……
なんて一瞬思ったものの、ゆっくりと語られる彼の声に、自然と耳を傾けさせられていた。
「辛いことや、不必要なものは忘れるようにできています。明穂さんがそうできないのは、彼との記憶を大切に思っているからです。本当は、捨てたくないものだから」
ドキリ、と胸が鳴る。
“本当は、捨てたくない”という言葉が、ぴたりと当てはまっているような気がして。