無愛想で糖度高めなカレの愛
ふたつの温かい缶を手に取り、再び彼の方を向くと、前よりも柔らかくなったような笑顔がそこにある。


「元気だったか?」


穏やかに問い掛けられ、少しだけ緊張が和らいできた私は小さく頷いた。


「うん。あなたは?」

「俺も相変わらず。去年スノボで骨折したけど」

「……うそ!?」


人並み以上に上手な恵次が骨折!?と驚いて目を丸くすると、彼は歯を見せて笑った。

恵次はスノーボードが好きで、私も何度か連れていってもらったことがある。その時のことを思い出して、強張っていた気持ちがほぐれてくるのを感じた。

自然と笑えるようになり、私は本音を口にする。


「……驚いたわ、まさか恵次がここに来るなんて。いつの間に営業やってたの?」

「二年半くらい前に異動したんだ。その時も、今回の話を持ち掛けられた時も、マジで?って思ったけど」


片手をポケットに入れたまま私のすぐ隣に来た彼は、同じ自販機に小銭を入れ、缶コーヒーのボタンを押す。

ふわりとバニラの香りが鼻をくすぐり、きゅっと胸が苦しくなった。

恵次はプルタブを開け、立ったまま缶に口をつける。うぅ、立ち去るタイミングがわからない……。


「そうだったんだ。甘いものなんて得意分野じゃないだろうに、よく引き受けたね」


とりあえず、気まずくなりそうな沈黙を破ろうとして、私はこんなことを言っていた。

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