無愛想で糖度高めなカレの愛
恵次が自嘲するように言い、賑やかな店内にふたりの小さな笑い声が混じる。

ここまでで、私は会話をシャットアウトすればよかったのに。


「最近その人と再会して、また想いが膨らんだというか。初めて知りましたよ、自分が未練がましい男だったってこと」


その一言で、彼が誰のことを言っているのかを確信してしまった。

「悩める男もセクシーでいいわね~」なんて、お気楽なことを言っている課長にも、室長の世間話にも笑えなくなる。


恵次が言っているのは、きっと私のことなのだ。

後悔している? また想いが膨らんだ? ……今さら何言ってるのよ。

二股かけていたくせに、私を本気で愛していたわけじゃなかったくせに──。


胸の中に暗雲が急速に立ち込め、一言では言い表せない感情が入り混じる。

恵次に目をやると彼も横目で私を見ていて、私達の間で見えない糸が結び付く。

すぐに顔を背けたけれど、動悸は激しくなるばかり。室長の話も、皆の談笑する声も耳に入らない。


あれほど好きだった人なのに、もうときめきを感じない。感じるのは怒りと困惑と、やりきれなさだけ。

あなたのせいで苦しい想いをして。それがやっと思い出にできそうだったのに──。

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