月下美人の咲く夜を

あれは……そう。一緒に暮らすようになって1年が過ぎた頃のことだ。

「………ナニ、それ。」

会社帰りの咲月が持ち帰ったのは一つの鉢だった。

「ふふっ。いいでしょ~。月下美人。」

「月下って………あぁ、昨日の。」

それは昨日一緒に見ていた恋愛映画に出てきた花だった。

小説が元になったというその映画で月下美人は重要なアイテムで、遠く離れた恋人への募る想いを蕾が育っていくことに投影させていたんだった。

花が咲いた夜のふたりの出逢いのシーンを、咲月はタオルで涙を拭いながら見入っていた。

乙女チックなドラマや映画が好きな彼女にとってはドンピシャだったんだと思う。

「花屋さんで聞いたんだけどね、すごくステキな花なんだって。

とにかく私、頑張って育てるよ。まだ2年くらい育てないと咲かないみたいなんだけどね。」

まだ小さなそのひと鉢と、それを眺めて満足げに笑う咲月。

このとき俺はその光景を、ただただ微笑ましく思っていた。


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