月下美人の咲く夜を
エンジンをかけると、自然と左手が助手席へと伸びていたことに気づく。
なくならないいつものクセ。
そうするといつも咲月は、クスクスと笑いながら華奢な指を絡ませ、掌を重ねてくれていた。
「……………はぁ。」
重ねる掌をなくしてからもう1年半。
こんな風に毎日が、咲月がいた過去と混ざり合って澱んだまま過ぎていく。
失くしてしまった『喜』と『楽』。
『怒』は…もうやめた。
今の俺は、『哀』ばかりだ。
そしてただただ、会いたい。
もう一度………、
たった一度でいいから触れたい。
抱きしめたい。
その想いばかりが、心に絡みついて締め付けるんだ。