月下美人の咲く夜を

シャワーを浴びてリビングに戻ると、スマホには母からの着信が残っていた。

『いつまで引きずるの?もういいかげん前を向きなさい。』

先日実家に帰ると、普段大人しい母は強い口調で俺にそう言った。

『いつまでも苦しむ子供の姿なんて見たくないわ。』

そう涙を零した。


ごめん、母さん。


わかってる。


わかってる。


自分が一番よくわかってる。


それでもせめてもう少し、『その時』まではこのふたりで暮らしたアパートで過ごしていたいんだ。

着信を表示したスマホは、そのまま裏返してそっとテーブルに置いた。


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