月下美人の咲く夜を

ぎしりと音を立ててふたりで選んだ革張りのソファから腰をあげ、吸い込まれるように一点に向かう。

それは色のない俺の現実で唯一、色を留めている。

「………咲月。」

窓辺にむかい、そっと声をかける。

そこにあるのは、咲月が残していった鉢植え。



月下美人だ。



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