月下美人の咲く夜を
この仕事を辞めようか、考えたこともある。
ここの人たちはみんな、俺に特別な人がいると知っていたから。哀れむ視線は寂しさを助長させ、虚しさも連れてきた。
「……………。」
戻ったデスクにあったのは、ひとつの小さなアメ。
誰が置いたのかなんて考えなくてもわかる。
…そういえば、今年入社の彼女は何も知らないんだったな。
その小さな気遣いを手に吉野さんをふと見ると、綺麗な笑顔を浮かべてお客さんにコーヒーとお菓子を出していた。