月下美人の咲く夜を
「ねぇ、月人。ホラ見てよ、綺麗なお月様。」
それはふたりで咲月が行きたがっていたレストランへ足を運んだ帰りのこと。
桜も散り始めた春の夜。
風に揺れる桜並木の合間に浮かぶ輝く月をその細く繊細な指先で指し示した咲月は、瞳にその輝きを映していてとても綺麗でとても愛おしかった。
ポケットにこっそりと忍ばせた、ロイヤルブルームーンストーンの婚約指輪。
人生で最高にドキドキしながら繋いだ手にキュッと力を込める。
歩みを止めた彼女の怪訝な表情を見て一呼吸置いてから、俺はまっすぐにその瞳を見つめてこう言った。
「………咲月、結婚しよ。
俺らをいつも見てるその月に誓って、君を幸せにする。」
ポケットから指輪を差し出した俺に一瞬驚いた咲月は、ほんの少し涙を堪えるように俯いてから顔を上げ、
「…はい。」
短くそう答えをくれた。
向けてくれた笑顔はまさに大輪の『月下美人』で…
一生に一度のプロポーズを月の下で受け、咲き誇るように輝いていた。
本当に、
本当に、
綺麗だった。