月下美人の咲く夜を
余裕なく押し倒しジャケットを放ると、ふと薄いレースのカーテンから差し込む月の明かりがいつもより眩しい気がして一瞬気を取られた。
「…綺麗でしょ?ブルームーンだよ。」
「………ブルームーン?」
「そう。あの力が私に時間をくれたの。
こうして月人に会いに来る時間を。
…こっち、見て?」
促されるまま視線を向けると咲月は潤んだ眼差しで俺を見上げ、細く華奢な両手を伸ばしてきて、
その左手薬指には確かに俺が贈った指輪が光っていた。
「…花じゃないのか?」
伸ばされた手にキスを落としながら問うと咲月は小さく首を横に振った。
「月下美人は私の月人の願いと祈りを貯め込む風船みたいなもの。
満たされて、咲いて、弾けた。
その弾けた想いを形にしてこうしてここに送ってくれたのはお月様の力。
花が咲いている間だけ、一夜だけ、時間をくれたの。
だから、月人。早く………。」
静かに、でも激しく抱きついてきた咲月からはむせかえるような花の香りがした。
『心地よく優雅で甘美』
その表現のそのままの香りが。