月下美人の咲く夜を
「須賀さん、好き……です。」
彼女に告白されたのは、ついひと月ほど前の暑い日のことだった。
営業で出先に向かい帰社が遅くなった俺を、ひとり待っていてくれたようだった。
勇気を振り絞ったのが一目瞭然の赤い耳、俯き加減の視線。きゅっと握られた手。
十分に男心をくすぐる…んだろうけど、俺の心はピクリともしなかった。
「ありがとう。………でも、ごめん。」
それ以外に言えることはなかった。
「………わかりました。すみません、忘れてください。
………みんなには言っちゃイヤですよ?
じゃ、さよなら!」
明らかに強引な作り笑顔だった彼女は、それでもにこやかに去って行った。
「………………。」
その後ろ姿は可哀想にも思えた。
けど、
俺にはどうすることもできなかった。
だって俺には、
俺には………………、
今でもたったひとりしかいないから。