ぼくらのストロベリーフィールズ
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今日はバイトが早上がりになったようで、一吾くんからの『腹へった』ラインが来たのは、夕方5時頃だった。
最近、近所に痴漢や空き巣が出ると父から聞いていたため、左右を警戒しなら歩いた。
スーパーで軽く買い物をしてから、彼のマンションへと向かう。
「……ん?」
マンションの前に、黒いタクシーが停まっている。
その姿は、マイカー所有率が高いこの住宅街の景色からは明らかに浮いていた。
しかも、車のナンバーの地名は、ここから何時間もかかりそうな街。
窓ガラスの奥には、シートを倒してヒマそうにしているおじさんの姿があった。
運転につかれて、かつ待ちくたびれている感じ?
大変そうだなぁ、と思いながらマンションに入り彼の部屋に向かった。
ガチャ、ガチャ。
「あれ?」
合鍵を差し込んだが、すでに鍵は空いていた。
一吾くん、もう帰ってるのかなと思い、いつも通り靴を脱ぎ、部屋の中に足を踏み入れた。
ん? ま、まさか空き巣!?
いやいや違うか。一応ここオートロックだし。
なんとなく息を止めて、静かに廊下を進むと。
「えー? もしかして、のばらちゃん!?」
甘ったるい女性の声に名前を呼ばれ、体全体がびくっとした。
廊下の先に見えたのは……。
「あ! その、お久しぶり、です!」
「やっぱりそうだよねー? 可愛くなったね~!」
清楚な花をまとめたような綺麗な髪型で、一束ゆるいおくれ毛を耳元に垂らした、細くて、美しい女性。
あの頃より少し年を取った感じはあるものの、相変わらず美しい。
もちろん昔、何度か会ったことがあるし、覚えている。
一吾くんの、お母さんだ――。