ぼくらのストロベリーフィールズ


そうか。この部屋は、彼女所有のものだから鍵を持っているんだ。



「どうしたの? のばらちゃん、1人? 一吾は?」



「すみません、勝手に上がり込んで! 一吾くん今日バイトで。私、ご飯とか作りに時々来てるんです」


慌てて、スーパーの袋を上に持ち上げながら、そう伝えると、


「そうなんだ! 良かった。のばらちゃんいるんだったら安心だ~」


と言って、彼女は細い指を合わせ、にっこりと笑った。



何て言うんだろう、艶やか? 色っぽさ?


昔に比べて華やかさが増したように思える。



一吾くんから、お母さんに関する最近の話は聞いていない。


今でも水商売の世界で働いているんだろうか。



「ちょっと近くまで来たから様子見に来たんだけど。……一吾、元気でやってる?」


「はい、バイトで忙しい感じですけど、学校にも来てますよ」


「そうなんだー。良かったぁ。じゃ、私仕事あるし行くね。一吾にもよろしくー」



腕時計を見た後、ブランドものっぽいバックを持ち、あわただしくその女性は出ていった。



「はい……」



バタン、と扉が閉まる。



きっとマンションの前に停まっていたタクシーで帰るんだ。


でも、わざわざタクシーって。電車や新幹線で来た方が早いし安そうなのに。



ちょっと普通の人とは感覚が違うのかな。



昔から彼のお母さんは、いろんな男の人とのうわさが絶えなかった。


あれだけ綺麗なのだから、もちろんモテるんだろうけど。



『新しいお父さんができるから』



昔、一吾くんがこの街を去る時、こう言っていた。


一吾くんだけこの街に戻ってきたのには、何か理由があるんだろう。



いろんな推測をしそうになったけど、


スマホを見ると、『7時すぎには帰る』と彼からラインがきていた。



やば、時間がない。早くご飯作んなきゃ。


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