ぼくらのストロベリーフィールズ


「ちょ、笑わないでよ! 恥ずかしいじゃん!」


「ごめん。そろそろ降りよ」



すたすたと一吾くんは展望台から降りていく。


私も口を尖らせたまま、その後姿を追った。



「待ってよー。うわっ!」



階段は角の部分が丸太になっていて、そこに足を滑らせてしまった。


危なく転ぶところだった。恥ずかしいー。



足を震わせたまま中腰になった私に、一吾くんは笑いながら手を差し出してくれた。



「はははっ、やっぱのばらいると飽きないわ」


「……笑いすぎ」



その手をつかむと、ぎゅっと強く握られた。



目をやわらげたまま、私を見つめる一吾くん。


たまにしか見せてくれない優しい表情に、嬉しさがこみ上げてくる。



「のばらのお父さんはしっかりしてるから大丈夫だよ」


「え、何か言った?」


「何でもない。行こ」



一歩、一歩、階段を下っていく。


つながれた冷たい温度と反比例に、胸の奥が熱くなることを感じた。



その手を同じ力で握り返すと、


彼はちらっと私を見た後、歩く速度をゆるめてくれた。



一吾くんは口下手だけど、たまに感情が伝わってくる時がある。



まだ帰りたくない。



悔しいけど私もそう思っていた。



照れ隠しもかねて、


「相変わらず冷たいね、手」と低い声で伝えると、


「のばらにあっためてもらえるようにしてる」と言ったのち、ぷっと吹き出した。



なーに自分で言ったことに対して、自分でウケてるんだか。





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