ぼくらのストロベリーフィールズ
ご飯を食べた後、一吾くんは帰っていった。
私がソファーでテレビを見ている後ろ、父は食卓に残り1人でビールを飲んでいる。
「あ、お母さんからこの前電話あったよ」
私はテレビ画面を見たまま父に話しかけた。
ぼりぼりと漬物を噛む音が、一瞬だけ止まった。
「何か、言ってた?」
「お父さんに、仕事無理しないでね、って伝えてほしいって」
「そっか……」
「連絡とってないの? お母さんと」
「ん~~~~~」
プシュ、と新しい缶が開けられる音がした。
母が出ていった時、父は
『俺も父親失格だな。母さんに母さん自身を見失わせてしまったんだ』と言っていた。
浮気をした母の方が、悪いはずなのに。
なぜ父が罪悪感を持っているのだろうか。
「正直、誰にも相談しないで、今の部署を希望したのは俺だからねー。地方開発の仕事やってみたかったんだよ」
「へー」
「でも、家族を支えるために懸命に働いていたけど、母さんはそれを望んでなかった……って、
こんなことのばらに言っちゃダメだよなー」
「別に? たまにはお酒飲んでグチぐらい言えばいいじゃん」
バイト先の居酒屋では、焼き鳥とお酒を片手にお客さんが騒いだりグチを言い合ったりしている。
昔は酔っ払いとか嫌いだったけど、息抜きは誰にでも必要だろう。
きっと、毎日みんな大変なんだと思うし。
「なんかのばらも大人になったねぇー」
私は振り返り、そうつぶやく父を見た。
肘をついてビールをあおるその姿は、店のカウンターに座っているお客さんとよく似ていた。
「あはは! 何でそんな寂しそうな顔してんの。喜ばしいことでしょ」
「だってちょっと前まで俺と母さんに興味なさそうだったじゃんー」
そんなことないですぅーと返し、再びテレビを見る。
今ここに母がいたらどんな感じになったのかな、とぼんやり考えていた。