ぼくらのストロベリーフィールズ
説明しようか、やめようか迷っているうちに、ナズちゃんは鏡を出してグロスをつけ始めた。
「なーんかのばらちゃん最近ノリ悪いよねー。ぶっちゃけうちらのこと見下してるでしょー?」
明らかにナズちゃんの声色が変わっている。
「え、何言ってるの? そんなわけないじゃん」
私たちの間に漂う微妙な空気に、昼食中のクラスメイトたちがざわつき出した。
「のばらちゃんモテるしねー。いろいろ忙しいんじゃない?」
「ほら、あの合コンの時ものばらちゃん狙い多かったし」
友達もフォローしようとしてくれている。
でもその内容じゃナズちゃんは満足しない。
私じゃなくてナズちゃんを立てないと。
仕方がないので
「ごめん! バイト先は居酒屋で、高校生は入りづらいとこだから!」
と鏡に夢中になっているナズちゃんに伝える。
「へー。居酒屋なんだー。もしかして一吾くんと一緒?」
喉元にナイフを突きつけられているよう。
ナズちゃんは味方にしておかないと、絶対に大変なことになる。
4月に入学した時に思った直感。
噂で聞いた中学時代の彼女のいじめ話が頭によぎる。
「うん。人手不足だからって紹介されて。私もちょうどバイトしたかったし」
まだ小さな嘘を重ねてしまう私。
いっそ全部吐き出してしまった方がいいのだろうか。
友達2人もナズちゃんのただならぬ雰囲気にそわそわし始めた。
しかし、ナズちゃんは、
「そうなんだぁー。いいなぁ一吾くんと一緒に働けて!」
と急にいつも通りの明るい声で、私に微笑みかけた。
友達も、知ってる人いるとだいぶ楽でしょ~、と会話に戻ってきてくれた。
鼓動は早くても、表面上はほっとしてしまう私。
それからはわいわいと普段と同じような昼休みを過ごすことができた。
私はまだナズちゃんの本当の怖さを知らない。