ぼくらのストロベリーフィールズ
『ほら、食いたいもん食え!』
『いーんすか? 家は?』
『今日俺イベント行ってることなってるから大丈夫。なんか一吾ちゃん連れて走りたくなったの』
達也さんはステーキセットを注文した。
遠慮するのはいい後輩じゃねーよと言われ、僕はハンバーグセットを頼んだ。
『一吾ちゃんこそ、家はどーよ』
『どうって?』
『かーちゃんと噂の男、どう?』
『上手くいってるみたいっすよ』
『一吾ちゃんとは?』
『…………』
達也さんは話しながらも、もりもりとごはんと肉を口にほおばる。
僕も同じくらいのスピードで食べていたけど、言葉が詰まった。
手にしたフォークとナイフが天井の蛍光灯に反射した。
切れ具合が悪いくせに、やたらピカピカであることにイラッとした。
『おれはあいつ嫌いっす。よくわかんないっすけど、とにかく嫌い』
『そーかー』
『今までも母さんに色んな男いたけど、一番キモい。マジ消えてほしい』
口に出すとどんどんイライラがつのってきた。
ぐさっとハンバーグにフォークを刺し、ナイフを鉄板に置いた。
あの目の奥まで笑いきれない表情や、『母の声で興奮するの?』という悪趣味すぎる冗談を思い出し、
怒りで手が震えそうになった。
そんな僕に、達也さんは、
『よーしよーし。やっぱ今日は気晴らしにおじさんと走りに行こうぜ!』
と言って、腫れぼったい一重の目をニコッと笑顔にさせた。
『おじさんて……達也さんもまだ未成年じゃないっすか』と返すと、
『うるせークソガキ』と言われ、足をごすっと蹴られた。