ぼくらのストロベリーフィールズ


私は何かを願うように、布団に置かれた彼の手に自分のを重ねた。



しかし、その瞬間に視線をそらされてしまった。



「一吾くん?」



お願い、またこっちを見てよ。



まぶたが半分伏せられ、小さな涙袋にまつ毛の影が乗る。



冷淡さと綺麗さが混ざった彼の表情に、体がぞくりとした。



抱き寄せられたかと思いきや、突き放され。


好きになってくれたかと思いきや、そういう対象に見たくないと言われる。


かと思えば、いつも味方になってくれて、優しくしてくれる。



キッチンの冷蔵庫の音が止まり、部屋の中は静まり返った。



私は、重ねた彼の手を強く握った。



「…………」



視線はそらされたまま。


だけど、ようやく彼はぼそりぼそりと言葉を紡いでくれた。



「あのさ……。おれ、ちょっと前に実家帰ったじゃん。母さんと少し話して、後は友達や先輩に会ってきただけだけど」



「うん」



「…………」



ここで、再び、静寂が訪れた。



次に口にする言葉を考えているのか、一吾くんは首をかしげている。



私もその件で、1つ気になっていたことがあった。



「その……急に実家帰ったのって、お母さんがこの部屋来たから?」



そう尋ねると、一吾くんは開ききっていない目で私を見た。



静かにうなずいてから、再び彼は話し始めた。



「3月まで、母さんとおれと、母さんの彼氏と3人で暮らしてて」


「うん」


「その彼氏がすげークズだから。母さんに何かあったと思って帰った」


「クズ……?」



「あいつ……時々母さんを殴ってるの。おれ見たのは1回だけだけど。母さん、変なとこにあざ作ってたし」



< 257 / 315 >

この作品をシェア

pagetop