ぼくらのストロベリーフィールズ
私は何かを願うように、布団に置かれた彼の手に自分のを重ねた。
しかし、その瞬間に視線をそらされてしまった。
「一吾くん?」
お願い、またこっちを見てよ。
まぶたが半分伏せられ、小さな涙袋にまつ毛の影が乗る。
冷淡さと綺麗さが混ざった彼の表情に、体がぞくりとした。
抱き寄せられたかと思いきや、突き放され。
好きになってくれたかと思いきや、そういう対象に見たくないと言われる。
かと思えば、いつも味方になってくれて、優しくしてくれる。
キッチンの冷蔵庫の音が止まり、部屋の中は静まり返った。
私は、重ねた彼の手を強く握った。
「…………」
視線はそらされたまま。
だけど、ようやく彼はぼそりぼそりと言葉を紡いでくれた。
「あのさ……。おれ、ちょっと前に実家帰ったじゃん。母さんと少し話して、後は友達や先輩に会ってきただけだけど」
「うん」
「…………」
ここで、再び、静寂が訪れた。
次に口にする言葉を考えているのか、一吾くんは首をかしげている。
私もその件で、1つ気になっていたことがあった。
「その……急に実家帰ったのって、お母さんがこの部屋来たから?」
そう尋ねると、一吾くんは開ききっていない目で私を見た。
静かにうなずいてから、再び彼は話し始めた。
「3月まで、母さんとおれと、母さんの彼氏と3人で暮らしてて」
「うん」
「その彼氏がすげークズだから。母さんに何かあったと思って帰った」
「クズ……?」
「あいつ……時々母さんを殴ってるの。おれ見たのは1回だけだけど。母さん、変なとこにあざ作ってたし」