ぼくらのストロベリーフィールズ
――じゃあお父さんに新しい女できたら、どーする?
――じゃその女がろくでもないクズだったら?
牧場の展望台で一吾くんに聞かれたことを思い出した。
あの質問の内容は、まぎれもなく彼自身のことだったんだ。
「だから、私のあざや傷にすぐ気づいてくれたんだね」
「そうかも」
「お母さんのこと、ずっと心配し続けてるの?」
胸が痛くなり、きゅっと手を握りなおすと、
一吾くんは軽く笑ってから、「んなわけないじゃん」とつぶやいた。
きっと嘘だ。
お母さんがここに来ただけで、急に実家に帰るくらいだし。
重ねていた手がすっと抜かれた。
一吾くんは私に焦点を合わせてから、再び視線をそらした。
「だって。おれ、母さんに家追い出されたんだから」
「え……?」
「そいつを一発殴ろうとしただけで、すげー母さんにキレられて」
「…………」
「んで、今ここにいる。意味わかんないでしょ」
私はさっき一吾くんがそうしてくれたように、彼の髪を撫でた。
反応はなかった。
だけど、あの時――彼のパーカーを握った時みたいに、拒否されなかったことが嬉しかった。