ぼくらのストロベリーフィールズ
☆
夏休みは、バイトで汗を流したり、新しくできた友達と遊んだり。
一吾くんは稼ぎ時だからと言って、バイトを増やしたらしく、
毎日へとへとになって帰ってきた。
2人の休みが合った時には、買い物に行ったり、一吾くんの先輩のライブに行ったりしたけど。
あの日以来、お互い深い部分に踏み込むきっかけはなく、特に変わりのない日々が続いた。
あっという間にお盆になった。
父は仕事が忙しく、夏休みはシーズン後にとることにしたらしい。
私はバイトの休みをもらうことにした。
一吾くんには、しばらく出かけてくる、とだけ伝えておいた。
新幹線と鈍行とバスを使って、緑が広がる田舎町へと向かった。
「うわー涼しいねー。ずっと田んぼや山ばっかりだったし」
「あぁ。のばらここ来るの久々だったっけ?」
久々に来たおばあちゃん家――母の実家。
縁側に座り、母と一緒に赤いイチゴをつまんだ。
標高が高いこのエリアは8月なのに涼しく、夏でもイチゴが収穫できるらしい。
口に入れたのは形がいびつな売れ残り品だけど、
強めの酸味の中にみずみずしい甘さが広がり、頬がとろけそうになった。
「お母さんとまともに会話するのも久々だよ」
「はは、そうかもしれないね」
軒下の風鈴が、心地の良い高音を奏でている。
ここはゆっくりとした時間が流れていた。
4月からの怒涛の毎日が、まるで夢だったかのように。
久々に会った母は、この景色の穏やかさに染まっていた。
はじめは出戻りと言われ、おばあちゃんに煙たがられたらしいけど。
農作業の手伝いを続けるうちに、少しずつ実家に居場所ができてきたらしい。
「あのさ、お母さんはどうしたいの? これから」
「もちろん戻りたいよ、あの家に。でも……私がしたことは家族として許されないことだから」
細長いイチゴを口に入れ、へたを皿に戻す。
で、結局どうしたいの? と、もう一歩踏み込みたかったけど。
リン、リン……と会話の隙間を埋める風鈴の音と、イチゴの甘酸っぱさが私の心を落ち着かせた。
そういえば。前に一吾くんに買ったイチゴのデザート、私が食べちゃったことがあったっけ。
次のバイト代で彼にイチゴのケーキでも買ってあげようかな。