ぼくらのストロベリーフィールズ







夏休みは、バイトで汗を流したり、新しくできた友達と遊んだり。



一吾くんは稼ぎ時だからと言って、バイトを増やしたらしく、


毎日へとへとになって帰ってきた。



2人の休みが合った時には、買い物に行ったり、一吾くんの先輩のライブに行ったりしたけど。


あの日以来、お互い深い部分に踏み込むきっかけはなく、特に変わりのない日々が続いた。



あっという間にお盆になった。


父は仕事が忙しく、夏休みはシーズン後にとることにしたらしい。



私はバイトの休みをもらうことにした。


一吾くんには、しばらく出かけてくる、とだけ伝えておいた。



新幹線と鈍行とバスを使って、緑が広がる田舎町へと向かった。



「うわー涼しいねー。ずっと田んぼや山ばっかりだったし」


「あぁ。のばらここ来るの久々だったっけ?」



久々に来たおばあちゃん家――母の実家。


縁側に座り、母と一緒に赤いイチゴをつまんだ。



標高が高いこのエリアは8月なのに涼しく、夏でもイチゴが収穫できるらしい。



口に入れたのは形がいびつな売れ残り品だけど、


強めの酸味の中にみずみずしい甘さが広がり、頬がとろけそうになった。



「お母さんとまともに会話するのも久々だよ」


「はは、そうかもしれないね」



軒下の風鈴が、心地の良い高音を奏でている。


ここはゆっくりとした時間が流れていた。



4月からの怒涛の毎日が、まるで夢だったかのように。



久々に会った母は、この景色の穏やかさに染まっていた。



はじめは出戻りと言われ、おばあちゃんに煙たがられたらしいけど。


農作業の手伝いを続けるうちに、少しずつ実家に居場所ができてきたらしい。



「あのさ、お母さんはどうしたいの? これから」


「もちろん戻りたいよ、あの家に。でも……私がしたことは家族として許されないことだから」



細長いイチゴを口に入れ、へたを皿に戻す。



で、結局どうしたいの? と、もう一歩踏み込みたかったけど。



リン、リン……と会話の隙間を埋める風鈴の音と、イチゴの甘酸っぱさが私の心を落ち着かせた。



そういえば。前に一吾くんに買ったイチゴのデザート、私が食べちゃったことがあったっけ。


次のバイト代で彼にイチゴのケーキでも買ってあげようかな。


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