ぼくらのストロベリーフィールズ
店でまかないを食べたから、ご飯は大丈夫だろう。
疲れているみたいだし、明日電話で起こしてあげようかな。
「……あ」
突然、一吾くんに腕を引かれた。
十字路から飛び出してきた自転車が、私たちの目の前を過ぎ去った。
「ありがと」
一吾くんに直接触れられ、意識が全て彼に支配される。
湿った風のおかげか、その手はいつもより温かかった。
「…………」
すぐに手が離されたけど、私は彼に触れていたかった。
父と母の話し合いの結果次第で、私は彼の部屋から出なければならなくなる。
まあ、私が望んだことなんだけど。
今日このまま彼の家に行けないのも、寂しかった。
「つなぎたいな。手」
私は、先に歩き出した一吾くんにワガママを言った。
「……ん」
彼は私を振り返り、手を差し出してくれた。
私は小走りでそこに向かい、きゅっとその手を握った。
つながった2つの影と一緒に、静かな道を進んだ。
「一吾くん、寂しい?」
「何が?」
「私がいなくなったら」
「別に。のばら来る前は1人だったし」
一吾くんは道の先を見たままで、表情も変わっていない。
だけど、その手から漏れてくる感情は、発した言葉と違っている。
本当は、私がいないと寂しいくせに。
2人分の熱を帯びた手が、愛おしくてたまらなかった。