ぼくらのストロベリーフィールズ
「このまま連れ帰ってくれてもいいのにー」
「は? 今日は家帰んなきゃいけないんでしょ?」
「まあそうですけど」
父が出張から帰ってくる今日。
それに合わせて母もいったん実家から出てきているはず。
ぷっと一吾くんが鼻で笑った。
「なにー?」
「何か、やけに積極的じゃん? たまってんの?」
「は? バカじゃないの!? 私女子だし!」
「いてっ」
いろいろな問題はあるけれど。
こうしていると普通のカップルみたいで、ふわりと心が浮かび上がりそうだった。
私はやっぱり一吾くんと結ばれたい。
女の子として愛してもらいたい。
好きだったら自然にそうしたくなることを、私は一吾くんに受け入れてもらいたかった。
そのためにできることを今は頑張るしかない。
しかし、幸せな時間の終わりが訪れたのは、突然のことだった。
一吾くんからスマホの振動音が聞こえた。
「あ、ごめん」と言って、彼は手を離す。
静かな夜の空気によって、スマホ越しの声は鮮明に響いた。
『一吾!! 助けて!!』と。
彼のいつもより見開かれた目が、どの程度の緊迫感なのかを物語っている。
スマホを持った右手がゆっくり耳から遠ざけられた。