ぼくらのストロベリーフィールズ



『嫌っ!! やめて! ……一吾っ!!』



彼を求める声は止まなかった。



前に、彼から聞いた話を思い出した。



一吾くんのお母さんは彼氏に時々殴られている、ということ。



私までその場にいるような錯覚と恐怖を感じた。



「…………」



一吾くんはスマホの終話ボタンをタップした。



お母さんに家を追い出されて、この街に1人戻ってきた一吾くん。


彼のお母さんの言動の意味が、分からない。



追い出した本人のくせに、助けを求めるのはどうして?



――『親なんて都合のいい時だけガキを必要とするもんじゃん』



前に尚紀くんに教えてもらった、彼の言葉が頭によみがえった。



「一吾くん……」


「行くわ」


「待って!!」



私は走り出した一吾くんの腕に飛びついた。



横目で私をにらんだ彼から、今までに見たことのない焦りを感じた。



「あの、ちょっと落ち着こうよ。今からどうやって行くの?」



ここで彼と離れてしまったら、もう二度と会えなくなるような気がした。



「タクシーつかまえる」


「お金は?」


「手持ち結構あるし」


「そうだ一服。一服しよ?」


「いらない」



珍しく私からタバコを許可してあげたのに、それすらも断られた。


でも、その表情から伝わる緊迫感が少し薄まった。



ちょっとは冷静になってくれたのだと思った。


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