ぼくらのストロベリーフィールズ


「行って……どうするの?」


「…………」



お母さんはお母さんである以前に、1人の女性だ。



私の母はカッとなるとお父さんや私にキツい言葉を次々と浴びせていた。


昔あこがれていた人と再会して、恋に溺れ父を裏切った。



私も、急に頭の中が真っ白になったり、


何をしてるか分からなくなったりするくらいに感情が高ぶることはある。



お母さんと言い合いをした時。ナズちゃんを殴ろうとした時。


そして、一吾くんにキスをした時。



男子にもそういう瞬間はあるのだと思うけど、同じ女としてのカンが今、全力で働いている。



ナズちゃんみたいな意味わかんない女子が、成長しないまま母親になることだってあるだろうし。



今行ってしまったら、きっと一吾くんはこの先も振り回される。



「だって、一吾くんはお母さんを守ろうとしたのに追い出されたんでしょ?」



心のもやもやを上手く言葉で表現できない。


どう言ったら伝わるのかも分からなくて、悔しい。



そんな私に、彼はふっと目を細め、優しい表情を向けてくれた。


目の奥がぎゅっと痛み、涙が出そうになる。



何で、今、そんな顔するの?



「のばらって生まれてから一番最初の記憶、どんなの?」



一吾くんから発されたのは、いつもと同じトーンのつぶやき声。


さっきスマホから聞こえた彼の母の声とは、正反対の。



それは私の気持ちを落ち着かせてくれた。



< 270 / 315 >

この作品をシェア

pagetop