ぼくらのストロベリーフィールズ
僕は無言で手を握りしめ、そいつの頬に何発か当てた。
拳についた血が、指の間から手のひらへと染み込んでいった。
『キャーーー!! 一吾! やめて! 何してるの!?』
慌てて部屋に戻ってきた母に、後ろから両脇をすくい上げられた。
振りほどこうと体をひねったが、すぐに動きを止めた。
母のお腹には、子どもがいる。
このクズ男との間にできたやつが。
振り返ると、憎悪に満ちた表情を浮かべた母がいた。
きっと、また平手打ちを食らう。
反射的に僕は目をつぶったが。
『何でこんなことするのよ!! もう終わったのに!!』
ゆっくり目を開けると、ヒステリックに泣き叫ぶ母がいて。
足元には完全に倒れてしまったそいつがいて。
――はぁっ、はぁっ、はぁっ
まだ体力が余っているはずの僕は、なぜか息が上がっていて。
意識を失っているのか、その男はまだ動かなくて。
――どっくん、どっくん、どっくん。
心臓の音が痛いくらいに体中に響いていて。
『あんたなんか産まなきゃ良かった!! この子のためにも早く消えて!!』
何よりも恐れていた言葉を、お腹に手を当てた母から浴びせられていた。