ぼくらのストロベリーフィールズ



「こうやって見ると、一吾くんって物少ないねー」



クローゼットに入った服や毛布、食器や鍋、クッション、分解した棚など。


数少ない荷物が次々と段ボールやゴミ袋に詰め込まれていく。



「のばらは寝てていいよ。疲れてるんでしょ?」


「ううん。全然」



一吾くんはきっと料理も、洗い物も、掃除も、整理整頓も、私よりできるはずだ。



何でいちいち私にやらせていたのか。


そして、何で私は彼の世話をしてしまうのか。



たぶん、お互いそれが心地よかったから、なのかな。



ガムテープを爪でカリカリしている私を見かねた彼は、


貸してと言った後、すぐにテープ部分を引っ張りだした。



「一吾くんって何気に器用だよね」と伝えると、


「のばらが不器用なだけ」と言って、ようやく笑ってくれた。



久々に見れた笑顔が嬉しくて、切なくて、


今日はできるだけ普段通りの自分でいようと思った。



一吾くんは明らかにいつもとは違うから。



着替えて、歯磨きをして、顔を洗って、布団を敷いて。


寝る準備を終えると、すでに日は変わっていた。



突然、冷蔵庫がぶーんと音を出す。



あ……そういえば!



「忘れてたー!」



いきなり大声をあげた私に、一吾くんは肩をびくつかせた。



「どしたの?」


「デザート! 買ってたんだった!」



冷蔵庫から私はピンク色のムースを取り出した。



本当はショートケーキやイチゴタルトなど豪華なものを買いたかったけど。


閉店間際のスーパーには無くて、結局、半額品のそれを買ってきた。



「はいどうぞ」と一吾くんに差し出す。


しかし、「1個だけでしょ。のばら食べなよ」と拒まれてしまった。


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